耕し手
巣をふたつ持つ鳥
TBNR
「昼は生活費、夜は可能性。」
第二の巣は「退社後」に置いてある。ふた巣の鳥は大体残業してる。
武器
二本の脚、両方ちゃんと歩いてる。安定収入がひとつ、実際に世に出したものがひとつ。他人は何かを買ってリスクを散らす。ふた巣の鳥は自分という人間で散らしてる。
死に方
気力は貯まらない。使った分だけ減る。巣ふたつ、それぞれ八時間欲しい。一日は二十四時間しかない。予定表の「退社後」の枠は、残業と家庭と疲れに長期戦でじわじわ齧られていく。副業が死ぬのは、千一回目の「今夜はもう無理」。
原型
村上春樹昼はジャズバーを経営して、明け方に台所のテーブルで『風の歌を聴け』を書いた。書き終わって新人賞を取った。ふた巣を持つ人はみんなここまでは語りたがる。その次を語る人は少ない。受賞の翌年、繁盛してた店をあっさり売って、専業作家になった。当時の原稿料は店の稼ぎに全然届いてなかった。貧乏は怖くない。怖いのは「両方やって、両方とも突き詰められない」ことだ、と本人は言ってる。ふた巣の物語が人の心を動かすのは、そこに結末があるから。